吉田ジョージの吉田屋帝国

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800字小説『名古屋テレビ塔のある風景。』吉田ジョージ

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『名古屋テレビ塔のある風景。』吉田ジョージ

 2015年、まだ北風の冷たい2月、僕は初めて登ったテレビ塔の展望台からオアシス21を見下ろしていた。こんなにゆっくり眺めたのも初めてだ。透き通ったブルー、楕円のお皿。名古屋にあって中々にエキセントリックな建造物だと思う。この景色を春からは、小学生になる息子や嫁さんといっしょに見られると想像するに心踊る。

 名古屋での単身赴任が4年目を迎えた。毎週末、大阪の自宅に通っていたので、心ここにあらず、仕事に追われた名古屋での生活だった。週の大半を名古屋で過ごしながら、帰るのは大阪なのだから。

 それは、嫁さんからの突然の宣告だった。

「信くんが1年生になるタイミングで名古屋に引っ越すでっ。このマンションも売りに出すわ」

 大手化粧品会社の正社員だった嫁さんが息子を保育園に通わせながら、平日はたった一人で子育てをしてくれていた。そんな彼女がキャリアを捨ててまで引っ越すと言う。世帯収入は減るかも知れないが、異存はなかった。

 多少無理をして、栄のオアシス21近辺にファミリー向け賃貸マンションを借りた。ベランダからはテレビ塔も望める。

 息子にとって第2の故郷になる名古屋。僕自身もその機会を得て、ようやく真正面から名古屋に向き合えた気がする。

 2017年、多量の湿りを帯びた真夏の空気がまとわりつく猛暑の8月、息子はもう8歳の小3だ。好物はひつまぶしや味噌煮込みだし、ほとんど関西弁を喋らなくなっていた。昨夜のベランダから呼ぶ息子の声。

「パパ、見て見て!テレビ塔がいろんな色してるよ」

 この先の彼は悲しいことも嬉しいことも、テレビ塔やオアシス21の風景と共にあるんだろうな。注文した「たっぷりアイスミルクコーヒー」は銀色のカップ表面に水滴を湛えている。外回り営業の休憩に立ち寄った適度にクーラーの効いたコメダにて、額の汗をおしぼりで拭い、存分に喉を潤してから、付け合わせの豆をつまみながら思う。(了)

(2017.11.23)

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