吉田ジョージの吉田屋帝国

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吉田ジョージ作 恋愛青春小説『風凪ぐ(かぜなぐ)』三

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 凪と出会ってからちょうど四週目の授業後、僕は凪に提案した。
「俺の友達に出水って奴がいて、物凄く男前なんで、藤本さんさえ良かったら紹介したいんだけど」
「ミッキー、ほんまに!会いたい、会いたい。いつにする?」凪は手入れの効いたボブヘアーを左右に揺らしながら無邪気に答えてきた。

 僕は、自覚しているはずの凪に寄せる恋心とは裏腹に彼女に出水を恋人候補として紹介する運びとなったわけだ。美男子の友人を凪に仲立ちして、自身に凪への諦めの気持ちを促すという歪んだやり方だった。美人な上に明るく社交的な凪が自分に見合うはずはないと観念していたし、これ以上好きになる方が辛いとも思っていた。

それでも僕が教室外に凪を連れ出すのは初めてのことだったので浮き立つ心を静めることに苦心した。いや、隠せてはいなかっただろう。

 出水とは梅田の東通をだいぶん奥まで進んだ所にあるダイニングバーで待ち合わせている。流行に敏感な出水の指定だったので間違いない選択と思われた。変わらず不快指数の高い八月の夕刻だったが、僕の心中は快適そのものだったといえる。凪とは阪急梅田駅の街頭大型ビジョン、ビッグマンの前で待ち合わせた。そこから出水指定の店までは急いだって徒歩十分は要する。その十分間こそが、僕と凪が二人きりで過ごす初めての時間なのだ。

「私、実家姫路やねん。大阪出て来た頃、ビッグマン前集合な言われて、ビッグマン知らんかってん。で、茶屋町口出た方にパチンコ屋あるやんか?昔あそこの店頭にでっかいギリシャ彫刻みたいな人形置いててん。私、ビッグマンてこれやろと当たり付けてずっとそこで待ってたことあんねん。そもそもビッグマンて名前から街頭ビジョンなんか想像できひんわ」

 道中、凪の発する言葉の一つ一つが僕には心地良く染みた。凪は人見知りするタイプではないので、誰とでも楽しく会話を成立させることが出来ると当然認識しているはずが、あたかも凪は自分といるから楽しくて仕方がないのだと思い上がってしまう。
僕の右を歩く凪が人の群れをひらりとかわすと涼しげなスカイブルーのワンピースが思いもよらぬ角度を見せ、柑橘系の香りが漂う。それさえ自分のためにあるように思い始めた頃に目的の店に到着していた。

店内に入り、出水の名前を店員に告げるとすぐに案内された。間接照明の効いた洒落た店だ。「さすがは出水」と僕は感心した。出水はすでに席に着いていた。

「三規生さん、お久しぶりです」
「おう、元気だった?こちらが藤本凪さん、えっと、二十六歳だから俺と同い年で、出水君より二つ年上かな」と凪を四人掛け席の右奥に座る出水の向かいの席に座らせた。自らは出水の隣に座るべきか凪の隣に座るべきか瞬時に考えたが、流れのまま凪の横に座る方が自然だったし、そうしたかった。同時にはっとしていた。いきなり凪の年齢を出水より年上だと話したことはフェアではなかった。

そこから僕は出水に気を使いながらも、時の経過につれ凪と二人で話が盛り上がる場面が増えていた。出水は機嫌良く聞き役に回る。
身長百八十五センチ、切れ長の凛々しい一重瞼の瞳、彼はいつでもクールで紳士だった。

あっという間に二時間弱が経ち、解散の流れとなった。会計を済ませ店を出ると出水が言った。
「僕、明日早いので、ここで失礼させていただきます。三規生さん、藤本さん、絶対また飲みましょうね」
僕は出水を促して十メートルほど先で二人になって言った。
「今日はありがとう。藤本さんのこと気に入ってくれた?」
「さすが三規生さんの友達ですね。凄い別嬪さんです。本当にまた近いうちに飲みましょう」と言うと、凪に対しても大きく手を振り歩き去った。「じゃあ、また」と僕は出水に言葉を送り凪の元に戻った。

 そこには僕より十センチほど身長の低い凪が腰を屈めて上目使いで、いた。僕は夜明けとともに濃い霧が晴れるような前兆を一瞬に、全身に、感じた。凪が申し出た。
「明日私、仕事休みやねん。もう一軒行っとこう!」
「えっと、俺も明日午後からだから大丈夫かな」断る理由などなかった。

「いいのかな?」自分への、自分の今置かれている状況に対しての問いかけのように僕が言った。

 凪は黙って頷いた。

二人は大阪市内にある僕のワンルームマンションにいた。

そうして、唇を重ね合わせた。
その日から凪は僕の部屋に居座った。

彼女は姫路にある実家に帰っては自分の荷物を細々と僕の部屋に運び込んでいった。

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