吉田ジョージの吉田屋帝国

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吉田ジョージ作 恋愛青春小説『風凪(かざなぎ)』十

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 落葉樹がいつ頃色付くかとテレビで話題に上がり始める十一月上旬。僕はサボりがちだったアナウンサー学校に出席していた。凪はとっくに辞めていて、様々なイベントで司会を務めていた。

「次は上村君」植田先生に突然、自分の名前を呼ばれてびっくりした。

「その原稿読んでみて」

「はい」

 今日のレッスンの教本は十七世紀のシェイクスピアの戯曲だ。百パーセント興味はない。

 女子生徒たちが、気持ち悪いくらい感情を込め、あるいは込めたつもりでセリフを声に出していた。僕としてはそれらが気持ち悪いと主張するつもりで、より無感情に、無関心に、ダンカン王のセリフを読み上げた。

 植田先生に思いのほか褒められたのは、先生も同じような居心地の悪さ、植田先生の選んだ教材ではあるけれど、を感じていたのかもしれない。

「上村君、帰る前に話があるから残って」と言われた。

 その話とは「来週の火曜日は空いているか」「県域AMラジオ局の(改編期無視の急な)オーディションがあるから参加しないか」ざっとそんな内容だった。

 その来週の火曜日が今週の火曜日になった夜、全く面識のない上部組織のプロダクションマネージャーに連れられてラジオ局に向かった。電車で向かう車中で、植田先生がこれまで関西で担当してきたテレビやラジオの番組のこと、アナウンサー受験に失敗して広告会社に入社、脱サラして今に到る経緯を聞く。というか、植田先生が上のプロダクションの社長だとその時初めて知らされた。

 オーディションなんて初めてのことなので良くわからない。大学在学時、満足に就職活動もしなかったせいで、面接自体がよくわからない。アルバイトの面接経験はあるが、よほど人格破綻が顕著でない限り、履歴書を忘れたとて簡単に採用された時代だ。

 オーディションで「趣味は?」と聞かれて、「趣味というか道とも言えることなんですが、ある種の自己啓発としてのナンパ道に勤しんでいます」と答え、ラジオ局のプロデューサーやらディレクターやらが興味深く質問を重ねる中で、師匠の言葉を受け売りのまま声に出していくと、概ね面白い奴だとの評価が固まったようだ。

 関西にあって奇を衒う様子なく、真面目に答える話の内容がやや常軌を逸する感じが、ぎりぎりまともに社会生活でき得る範疇だと認められたのだろう。

 こちらとしては師匠の言葉を伝えただけではあったが、ラジオで喋る仕事が決まるなんて夢のようだったし、師匠に伝えることはなかったが、心底師匠に感謝した。

 そのような番組オーディションでは、これも後から知ったことだが、不合格者への連絡は三日後から一週間後、あるいはその連絡自体がない。僕はその日の内に合格の連絡を受けたので、そんなものかと思った。イエスを伝えるのは一刻も早く、ノーを伝えるのは先伸ばし、確かにそうだ。

 凪はイベントコンパニオン友達と晩御飯を食べに行くと聞いてはいたが、意外に早い夜十時に帰宅した。

「ラジオの仕事決まったよ。なんか番組名に俺の名前も入るみたい」

「あっ、そう」

 凪は全く興味がないようにも、むしろ興味があり過ぎて無関心を装っているようにも見えた。僕としては、ウザいくらいに自分以上に喜ぶ凪の姿を想像していたので意外に思ったが、必要以上に喜ばれるよりも楽に、照れ臭さを感じることなく済んだことに、むしろありがたさを感じた。

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