吉田ジョージの吉田屋帝国

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吉田ジョージ作 恋愛青春小説『風凪(かざなぎ)』十三

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十三

 僕はその日、自らに堆積した薄い皮膜を一枚でも多く引き剥がしたい一心で、心の中に孤独を湛えた美人A子と口と口で粘膜の交換をし合っていた。濃紺のコートに包まれたモンドリアンルックのワンピース、その赤いエリアを弄(まさぐ)りながら。

 A子としたのは名も知らぬ女だったし、名前を聞くことも聞かれることもなかったからだ。場所はB公園。B公園としたのは散々酒を浴びた挙げ句のことで単に忘れたからだ。

 少し肌寒い夜だったように思う。都合良く推測すれば、その寒さを緩和するためだったかもしれない。

 僕はA子と羊水のような温もりの深海をゆっくり沈むように接吻を重ねた。曖昧な記憶の中、唇の感触と原色の幾何学模様の心覚だけがその痕跡だ。

 四階建てマンションの三階に凪との2DK部屋がある。エレベーターはない。必然階段で歩き登る。僕は地上からじっと自分を見詰める男の視線を感じた。遂に、螺旋状に登る二階の階段踊り場から、男に声を掛けた。

「何か用ですか?」

 男は寸分の動揺も見せずに返答した。

「二〇二号室の山田さんですか?」

 僕はほっとして答えた。

「いえ、違います」

「すいません」

 酔いが残っているが、確かに僕は三〇二号室の上村さんのはずだ。

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