黄色原人
大阪市中央区の戎橋、いわゆるミナミのひっかけ橋で物凄い人に遭遇してしまった。
彼は何をするでもない。ただただ、そこに立ち尽くすだけだ。しかも、まばたきひとつせずに。そして、全身を黄色いコスチュームで覆っている。顔面も黄色ペイントだ。あらゆるジャンルのストリート・パフォーマーが集うこの地にあっても、ひとり異彩を放つ。
立て看板には「東京への遠征活動のための援助をお願いします」の表記が。それを見たおばちゃんが100円玉を空き缶へ投入。すると、原人の右手が動くではないか、おばちゃんに握手を求めている。握手する大阪のおばはんと黄色い人。異様な光景だ。
この黄色い人は一体何者なのだ!
好奇心を抑え切れずに撤収準備中の原人に突撃取材を試みた。果たしてしゃべっていただけるのか、という心配をよそに非常に礼儀正しい方でした。
芸術家
彼は元々は立体作品を手がける芸術家だと判明。黄色原人のルーツを訪ねると、「長くなりますけども・・・」と自らを語り始めた。お話によると、中学校の文化祭のふとした折りに、まばたきをせずに1時間でも立ち続けることができるという自らの能力を発見したそうだ。
しかし、時は流れ、そんなことも忘れていた頃、自分の確固たる作品性を模索していた彼はあらゆるオブジェを黄色くペイントするという作業に取り組んでいた。ある時、黄色ペンキが顔に付着。ふと鏡を見た彼は、「これはいける」そう思った。この瞬間、「黄色原人」のアイデンティティーが確立されたのだ。歴史的瞬間。かくして「まばたきしない黄色い人」は誕生した。
原人のデビューは1987年の3月、何とあの京都府立美術館だという。「アンデパンダンテと言ってお金さえ払えば誰でも出展できるのです」照れ臭そうに語る。その後は関西テレビに出演を果たすなど、徐々に注目を集めている。
お金を入れた時、なぜ握手をするのかと聞くと、「サービスです。機嫌が良いと踊ることもありますよ」そう答えた。
前衛芸術にサービス精神旺盛なのもどうかと思ったが、原人はそう言うと初めて笑顔を見せたのだ。
そんなチャーミングな原人、実は47歳!!ある意味かっこいいよな。(2001.6.4)