*この文章はノンフィクションです。事実は小説より奇なり。サスペンスだわ。当時、精神的に追い込まれ、結婚式に参列できなかった友人よ、この場を借りて「ごめんなさい」。こんなことがあったのです。
序章
私が大学を卒業後の1994年頃の話だろう。クーラー設置も要因の一つだったので、確かに真夏だった。そうだ、新しいエアコンを購入した夏だ。猛暑と記録にある。台風は何と36個も発生。その夏の台風のように多数の嫌がらせが私に猛威を振るったのだ。
原付バイクのシートをカッターナイフで切り裂かれる。原付バイクのシートに粘り気のある液体を塗られる。原付バイクのナンバープレートを折り曲げられる。こんな嫌がらせから始まった。何度も繰り返されるので、終ぞナンバープレートは折れてしまった。
次に毎日、家を出る瞬間に携帯電話が鳴るという嫌がらせが始まった。監視されているようでおぞましい。
郵便物が盗まれているようでもあった。その夏、友人が送ったはずだという結婚式の招待状は私には届かなかった。
おそらく携帯電話の番号も、当時は請求書が郵送され、そこに記載があったので、そうして手に入れたのだろう。
犯人の見当は全く付かない。直に毎日の固定電話への無言電話も始まる。どうせ、通話料は向こう持ちだからと切らずにいた。
さらに、同時期に始まったのは、ドアの覗き穴、ドアスコープを油性ペンで塗り潰されるという嫌がらせだ。これは塗られる、シンナーで除去するのイタチごっこが続いた。一体、何のために覗き穴を塞ぐのか。
とにかく、連日このような嫌がらせに晒されてほとほと精神的にも参っていた。
それらの嫌がらせは台風とシーズンを重ねるように残暑厳しい秋口まで続いた。
第一の男
事態は急展開を見せた。まずはドアスコープの件だ。夜中に確認すると、黒く塗り潰されて何も見えない。証拠保全にと「写ルンです」(まだ携帯電話にカメラはなく、デジタルカメラの普及している時代ではなかった)を持って扉を開けた。すると、瞬時に人影が隠れた。私は、気を引き締め、インチキな関西弁で捲し立てた。
「こらっ、出て来んかい!ボケっ!」
内心、恐怖でビクビクだ。すると、薄汚れた小さなおっさんが現れた。
「すいません。すいません」
弱そうで良かった・・・。
「これ、おっさんがやっとんの?」
「はい。すいません。特に意味はないです」
「バイクへのイタズラや無言電話もお前か?」
「そんなことしてないです。本当です」
「二度とすんなやっ」
私は部屋へ戻った。翌日以降、ドアスコープへのイタズラは終わったが、無言電話やバイクへのイタズラは変わらず続いた。
数日後の深夜、ドアスコープの確認をした時だ。黒く塗られてはおらず、当然その先が覗いて見える。再び、恐怖に陥る。この間の薄汚れたおっさんが、女性一人暮らしの隣部屋のドアに耳を当てていた。瞬時に合点した。おっさんは隣人女性のストーカーであり、その行為を私に見られまいとドアの覗き穴を塗り潰していたのだ。やはり、無言電話や他の嫌がらせは全く解決していないではないか。
私は110番通報し、ストーカーの小男は警官に連行された。
翌日、隣人女性に昨夜の件を伝えると電柱に登りベランダ側の窓から覗かれたこともあると。恐ろしい。
第二の女
さらなる急展開。変わらず続く毎日の無言電話に、私はいつものように話し掛けていた。
「目的は何?」
「・・・」
「俺に恨みでも?」
「・・・」
「通話料そっち持ちやからええけどな」
「・・・」
「まあ、一回会ってみるか?」
その後、腰抜かす。
「ど・・・ど・どこで?」
ウギャーーー!喋った。女性の声だ。落ち着いて落ち着いて。
「あの、ご近所ならば明日、〇時に〇〇で」
「はい」
約束の時間に現れたのは普通の大人しそうな女子中学生だった。もう、説教する気にもならない。
「学校に報告したりしないよ。どうやって、俺の電話番号を入手したの?」
「吉田さんが、学校に取材に来た時にちょうど先輩が卒業のための住所録を作っていて、吉田さんの連絡先が書いてあったので」
あっ、記念写真を送りたいから住所教えてくださいと言われて確かに書いた。フォーマットに添って御丁寧に電話番号まで書いたんだ。自業自得。まだ個人情報に緩かった時代だ。
「そっか。もういいよ。二度と無言電話なんかすんなよ」
名前も聞かず、家族とうまくいっていない等の悩みを聞かされ、それらを立ち話で済ませてその場を後にした。
こうして固定電話への無言電話は終息した。しかし、原付バイクへのイタズラや家を出た瞬間の携帯電話着信は終わらない。一体何人おるんや・・・。絶望感に苛まれた。
第三の男
連日の嫌がらせはもうルーティンのように続き、ストレスマックスな頃、例のストーカー被害の女性と反対側の部屋の住人が壁をドンドンと蹴ってきた。この隣人はよく壁を蹴ってくる。私はいつもなら倍蹴り返していたが、今日は無理だ。部屋を飛び出して、隣人のドアをノックしまくった。出て来ない。が、出て来るまでノックし続けた。
ガチャ。
いつもの冴えない中年が現れた。引越し時に挨拶はしたので面識はある。
「何で壁蹴んねん?」
「いや、大家さんには伝えてますが、そちらのエアコンがうるさくて」
「えっ、聞いてないよ、そんな話。直接言ってよ。じゃ、早急に対応します。すいません」
電気屋がただでさえ薄い壁の部屋なのに隣部屋との間の壁にエアコンを設置していたのだ。
数日後、ベランダ窓側の壁にエアコンを設置し直した。
それ以降、嫌がらせはパッタリと全て無くなった。
犯人は隣のあいつかっ!疲れた。【了】(2019.7.12)